◆ 可愛いオトメのつくりかた。こぼれ話 ◆



いや、わざわざ文章にするまでも無いとは思うくらいの、何でもない出来事。そういうことにしておいて欲しい。今から語るのは、私と………彼との、出逢い話だ。

それはいつものように遅刻ギリギリで地下鉄の駅から学校までの道程をダッシュしていたときだった。いつものように、とはいっても今日は乗り継ぎの調子が悪かったため本当に遅刻が危ぶまれ、それはもう必死で走っていた。そのために、周りがよく見えていなかった。今度からもっと早く起きよう、とか考えながら必死で走っていると、突然の衝撃。途中の横道からひょいっと出てきた人物に、私は凄い勢いでぶつかってしまったのだった。
「いった…」
「気をつけろよ、ばか」
「なっ…ちょ、馬鹿は無いでしょ、馬鹿は…!!」
いや確かに周りを見てなかった私が悪いんだけど。謝ろうと思っていたにもかかわらず、売り言葉に買い言葉で思わず反論していた。
「…馬鹿は馬鹿だろ。周りくらい見て走れ」
それだけ言い残して去っていく男。よく見たら同じ学校の制服だった。見たことない顔だったけど。先輩だったらどうしよう。そんなコトを考えながらようやく態勢を立て直すと、遠くでチャイムの音がした。…遅刻決定だ。

遅刻決定だ、と思いながらも必死に走って教室に入ると、驚いたことにまだ先生はきていなかった。
「先生は?」
鞄を下ろしながらも、隣の席の加奈ちゃんに尋ねる。
「転校生が来るそうで、少し遅れるそうですよ」
加奈ちゃんが微笑む。そっか、と返して席についた。
転校生か、どんな人なんだろう。まぁ何にせよ先生がまだ来てなくてよかった。
少しして、教室のドアが開いた。
「遅れてごめんね、転校生を紹介します」
…嘘。
思わず目を見開いた。先生の隣に立っていたのは、先程ぶつかったばかりのあの男だったからだ。いや、まさかこんな小説みたいなことがあるとは。でもさっきは慌てていて全然顔見てなかったけど、結構格好よくないか?って、あれ、何だか無性にドキドキしてきた。何だ何なんだ、まさかそんな、それこそ小説、漫画の中の話で―――
不意に、転校生と目が合った。
口元が変に動く。
『 ば か 』
くくっと笑う。畜生、かっこいい。でも私は馬鹿じゃない!ぐるぐるとおかしな回転を始めた思考と共に、何かが始まっていたのだった。

…今思い返しても恥ずかしい、何のギャグ漫画かというような出逢い。でも、それが転がりに転がって、彼の優しさを知って、彼の魅力を知って、彼を求めるようになって。彼の隣が一番落ち着くと思えるようになったのは、この三ヶ月後のこと。




end.










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