目に映ったのは―――――鮮明な、紅。



紅葉




その場所を見つけたのは、本当に偶然だった。
ただ、そこに存在(あ)る―――紅。
それだけが、印象的で。
ただただ、立ちすくんでいた。
その紅を表現する言葉なんて、見つかるわけもなく。
その紅だけが、まるで異空間にあるかのように。
この美しさを、この感動を表す言葉が・・・・・・どうしても、見つからない。

「下手な表現なんて、しないほうがいい・・・・・・
 下手な言葉で、汚していいものじゃないから・・・・・・・・・」
「!?」

不意に聞こえた声に、少しだけ、動揺して。
―――でも。

「あぁ・・・そうだな・・・・・・」

それは決して、その空間を壊すものではなかったから。

「――・・・あなたは、誰?」

問いかけられたそれに、ゆっくりと声のほうを向く。
そして、そう―――そこにいた人も、また。
この空間を壊すものでなく。
完全に、同化していた。

「久遠――・・・東宮久遠(とうぐう くおん)だ。」

名乗った、、俺のほうに。
彼女も、振り返る。

「久遠、いい名前ね・・・・・・・・・私は紅咲由芽(こうざき ゆめ)・・・・・・
 あなたはいつ、これを見つけたの・・・?」
「たった今・・・だけど」
「…そうだと思った。私も、最初に見つけたときは声も出なかったもの――…」

そう言ってまた、その紅を見る彼女。
・・・瞬間、吹き抜ける風。
紅が美しく舞い、彼女の漆黒の髪が、なびく。
ただ、美しく。
ただ、綺麗に。
ただ―――――優雅に。
どんな写真も、絵も、ここまで美しいものはないのだろう。
これほどの、光景は。

陽が、ゆっくりと沈んでいき。
空が、濃い藍色へと変わりゆく。

「ねぇ・・・あなたは、明日もここへ来る――・・・?」

しばらくの静寂が破れ、声が聞こえて。

「もしよければ、明日も―――」

"この紅を、一緒に。"

「あぁ・・・・・・」
「ありがとう・・・・・・」

それだけ言うと、彼女はまた紅を見る。
真っ直ぐな、瞳(め)で。

彼女と、紅の織り成す空間。

これほどまでに、時がゆっくりと流れた時間を。
これほどまでに、時が速く流れた時間を。
俺は、知らなかった――――――


その日から俺は、よくその紅を見に行くようになって。
彼女―――紅崎由芽は、いつもそこに居て。
静寂の時を、感じながら。


そして―――ある日。


この日もまた、あの場所へ。
紅を、見に行ったのだが。

「―――・・・っ」

その紅に、違和感を感じる。
いや・・・・・・その紅は、何ひとつ。
変わっては、いない―――――

「彼女が・・・・・・居ない?」

そう――・・・彼女が、居なかった。
それだけの事に、違和感を感じた。
最初にこの場所に来た時には、話し掛けられるまで気付かなかったというのに。
何故、違和感を感じるのだろうか。
何故、このときに静寂を感じる事が出来ないのか。
・・・何故、なのだろう。


少し強い風が、紅を美しく舞わせる。
それと同時に、なびかない漆黒が。
これほどまでに、紅を淋しく感じさせるなんて。

―――あぁ、そうか。

俺はきっと、紅と同時に彼女を見にきていたのだろう・・・
恐ろしいほどにそれと同化する、彼女。
この美しい紅以上に、彼女に惹かれていたんだ。

「由芽・・・・・・」

初めて口にした、名前。
あぁ、なんて。
愛しく感じてしまうのだろう。
何故。こんなにも。
想って、いたのだろう。

「・・・呼ん、だ・・・・・・?」

向こうのほうから現れた、彼女に。
静寂が、訪れる。
それを崩さないよう、彼女にゆっくりと近づいて。
・・・よく考えれば、こんなに近づいたのは初めてのことだ。
彼女とは今まで、ある程度の距離しか近づいていなかったから。
ほんの少し離れて見る、紅と漆黒が美しすぎたから。

「久、遠―――?」

彼女が、俺の名を呼んだ、瞬間。
ゆっくりと、抱きしめた。

「好きだ――――由芽」





それから幾つもの月日が、紅の季節が、過ぎて。
また新しい、紅の静寂の下で。

「由芽・・・・・・」
「・・・・・・久遠」


――――――永遠の愛を、誓う。








*After talk*
最初に、この話を書いたのは2004年の12月でした。
ノートに下書きをしたのはもう少し前だったようにも思えます。
『桜』と対にした感じで。夢小説になおす予定だったものが、小説のまま放置されていました。
これも特に加筆修正も入れていませんので、色々とおかしな部分も多いかと思いますが。
個人的に、この話の題材もかなり気に入ってます。・・・いつかきちんと書き直したいです。


水瀬 海未架

2006/3/18